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「十六羅漢図」
絹本着色
筆者不詳
向かって右幅:縦110.3×横40.9センチ
向かって左幅:縦109.7×横40.9センチ
羅漢は、釈迦の入滅後にその教えを護持する役割を帯びた聖者(僧侶)を指す。
「十六」、「十八」、「五百」など複数の羅漢が集められる場合が多い。日本では古
代より信仰されており、法隆寺五重塔の塔本塑像などが有名である。平安時代以
降に特に信仰が盛んになり、鎌倉時代より中国より多数の画像が舶載され、それら
が日本の羅漢図制作の大きな契機となった。日本の絵師は、それら中国画に倣い
ながら、作画に携わったのである。
ところで羅漢図は、他の仏画の画題に比して、自由度が高い。それ故に日本の
絵師は、複数の羅漢図から羅漢の姿をピックアップし、新たな作品を創出してきた。
また、羅漢図に宗門の高僧を盛り込む例などもあり、いわば「信仰の受け皿」となって
いた側面も持っている。
本龍院所蔵の羅漢図は、1幅に8人の羅漢を配し、2幅から成る「十六羅漢図」
である。羅漢はこの画題において通例の通り、水墨画風の自然景の中に描かれる。
若年・壮年・老年の者も配され、羅漢図において常套的な、龍・虎を従える者も見
受けられる。幾分後筆の痕跡も認められるものの、描写は的確で優秀であり、細か
な金泥文様の描写も美しい。
画面下部には、羅漢以外の実在の人物が描き込まれる。右幅には弘法大師、
左幅には聖徳太子の姿も見える。この2人を描き込んだ羅漢図は、特に室町時代の
南都周辺の作に見受けられるものの、左幅に中国浄土教の大家である善導大師
(左下隅の合掌する僧侶)が描かれる例は現段階で確認されておらず、本作が唯
一の例である。
落款は無く、絵師は不明であるが、その作風より、制作年代は室町時代・15世紀
に上ると思われる。都内の寺院に蔵される、さまざまな信仰が織り込まれた貴重な中
世の羅漢図である。
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